12月6日「扁鵲」

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中国の戦国時代に活躍した医者で扁鵲という人がいました。彼は卓越した医術の持ち主で、史
記の中には『扁鵲倉公列伝』という伝記が残されており、中国における医師の最初の伝記とさ
れています。その伝記の中に尺厥という病気についての説明で「・・・是を以て陽脈下遂し、
陰脈上争し、会気閉じて通ぜず。・・・夫れ陽を以て陰に入れば支蘭蔵なる者は生き、陰を以
て陽に入れば支蘭蔵なる者は死す。」という一節を見つけました。尺厥とは突然意識不明にな
り、呼吸は弱く、緊急処置が必要となる状態のこととされていますが、この病気について本文
ではどのようにいっているのでしょうか。
まず、通ぜず。までの文は、陽が下ると本来下にあるべき陰脈が陽脈と争いあって上に行って
会気(陰陽を調和させるところ)が塞がってしまう、となりますが、厥の意味※からして陰を
寒気としてみますと、寒気が上にのぼった状態と考えられます。素問の『厥気上行し脈を満た
し~』とよく似た状態であり、この‘脈を満たす’という条件を加えれば、気と血が一緒に上がっ
て血管に影響を与えたと考えられます。冬場寒いところで突然に起こりやすい心筋梗塞なども
これに近いのかもしれません。
次に・・夫れ陽を以てからの文、陽が陰に入れば五臓は生き、陰が陽に入れば五蔵は死ぬ、と
は一体どういうことなのでしょうか。先に、尺厥は陽が陰に入ったことがきっかけで陰が上る
と書かれていました。また本文に続く文では、上記の状態に罹った方は扁鵲の治療で命が救わ
れたことが書かれています。従ってこの文は、尺厥は適切に治療すれば助かる病気だよ、と強
調するために書かれたのではと推測します。
紀元前6世紀ごろに存在したとされる扁鵲。現在でも危険とされる病気からも救った可能性が
あり、さすが伝記に残るだけの人物、と思いました。
※(1)多くは寒気が原因で気が逆行する状態(2)突然めまいがして意識不明になる状態
(3)手足の先から冷え上がって意識不明になる状態
参考:『史記』扁鵲倉公列伝訳注 森田傳一朗著 雄山閣出版